大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成5年(ワ)11353号 判決

第一事件、第二事件原告 柴田秀子

右訴訟代理人弁護士 荒竹純一

同 藤本えつ子

右訴訟復代理人弁護士 船橋茂紀

第一事件被告 住友信託銀行株式会社

右代表者代表取締役 早﨑博

右訴訟代理人弁護士 馬瀬隆之

同 広田寿徳

同 竹内洋

同 谷健太郎

第二事件被告 安田信託銀行株式会社

右代表者代表取締役 立川雅美

右訴訟代理人弁護士 工藤舜達

主文

一、被告住友信託銀行株式会社は、原告に対し、金二九三万六八一一円及びこれに対する平成六年三月一七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二、被告安田信託銀行株式会社は、原告に対し、金六一万八一〇六円及びこれに対する平成六年三月一七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三、訴訟費用は、第一事件及び第二事件を通じてこれを五分し、その四を被告住友信託銀行株式会社の、その一を被告安田信託銀行株式会社の、それぞれ負担とする。

四、この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一、原告の請求

主文一及び二と同旨。

第二、事案の概要と争点

一、当事者間に争いのない事実

1. 被告らは、大蔵大臣の許可を受けて銀行業を営む会社である。訴外故塩谷敏子(以下「敏子」という。)は、被告らに対し、左記の信託債権及び預金債権(以下「本件預金債権等」という。)を有していたが、平成三年一一月一七日に死亡した。

(第一事件被告住友信託銀行株式会社に対して)

① 貸付信託 ニ-七二-二-二四二 金一五〇万二六一九円

② 貸付信託 ロ-七三-二-四二一 金一〇〇万一五九七円

③ 金銭信託 カ-一〇〇〇六六 金四三万二五九五円

合計 金二九三万六八一一円

(平成六年三月一六日までの利息を含む。)

(第二事件被告安田信託銀行株式会社に対して)

① 貸付信託 〇一八二六六〇二一-一一〇 金三〇万〇六九八円

② 金銭信託 〇一八二六六〇二一-一 金一〇万一七〇五円

③ 普通預金 二一八八二九五-〇一八 金二一万五七〇三円

合計 金六一万八一〇六円

(平成六年三月一六日までの利息を含む。)

2. 原告と敏子は、平成三年一一月一〇日、敏子が死亡した場合には右債権を原告に譲渡する旨の死因贈与契約を締結した(甲一号証、原告本人尋問)。

そこで、原告は、敏子が死亡した後、被告らに対し、本件預金債権等が原告に帰属したとして、それぞれ平成五年三月一九日に到達した書面をもって本件預金債権等の返還を請求した。

3. 敏子の相続財産管理人である犀川季久弁護士は、被告らに対し、それぞれ平成六年三月一六日に到達した書面をもって、本件預金債権等の譲渡を通知した。

二、争点

1. 原告と敏子は、平成三年一一月一〇日に、敏子が死亡した場合には本件預金債権等を原告に贈与する旨の死因贈与契約を締結したか。

2. 被告らが相続財産管理人から本件預金債権等の譲渡につき通知を受けた平成六年三月一七日以降、被告らが原告に対して支払うべき遅延損害金の率はいくらか。

第三、争点に対する判断

一、本件死因贈与契約について

1. 被告らは、原告が本件死因贈与契約の証拠として提出している贈与契約書(甲一号証)が全文ワープロで作成されていて、敏子自身の手で署名がなされていないことなどから、金融機関の職責として、本件死因贈与契約の成立につき原告の立証を求めているものである。

2. そこで、判断するに、甲一号証(贈与契約書)、甲二号証(改製原戸籍)、甲三号証(除籍戸籍)、甲九号証(原告の陳述書)及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、昭和二七年頃一六歳で宮城県から上京し、新橋で芸者をしていた敏子のところで住込みのお手伝いとして働き始め、昭和四五年五月まで敏子方に同居していたこと、その後、結婚を機に敏子方を離れたが、暫くは通いで毎日のように敏子の世話をし、原告自身の生活が多忙になった後も月に二~三回程度は敏子の世話をしていたこと、昭和六〇年過ぎに敏子が体調を崩してからは週に一回程度の割合で敏子方を訪れ、平成三年に敏子が肝臓癌で入院し、同年一一月一七日に死亡するまで、通算三九年間にわたって敏子の身の回りの世話をしていたこと、敏子は、若い頃から芸者をして働き、他に身寄りもなかったことから、原告を実の娘のように養育し、原告が成人した後は何事も原告に頼るようになり、読み書きも不自由なこともあって、実印も原告に預け、敏子名義の預金口座の開設手続などもすべて原告が行っていたこと、平成三年一〇月になって、原告は、敏子から死亡後は全財産を原告に譲るので必要な手続をするようにと指示され、本件訴訟で原告の代理人をしている荒竹純一弁護士に相談して甲一号証の書類を作成してもらい、同年一一月一〇日頃、原告が敏子に内容を読み聞かせて確認し、敏子の了解を得た上で敏子の実印を押印したものであること、以上の事実を認めることができる。

3. 右に認定の事実によれば、原告と敏子は、平成三年一一月一〇日その意思に基づいて本件死因贈与契約を締結したものと認めることができ、敏子がその死亡後、原告に財産を譲り渡そうとしたことに不自然な点もなく、また、甲一号証の作成経緯にも疑念を抱くべき点はないと言うべきである。

二、遅延損害金の率について

1. まず、被告住友信託は、同被告の原告に対する債務は、敏子から原告に対して債権譲渡された結果負担することになったものであり、原告あるいは被告のいずれにとっても商行為により生じた債務ではないから、商事法定利率年六分の適用はなく、民法所定の年五分が適用されるべきであると主張している。

2. 次に、被告安田信託は、原告は商人ではなく、また、本件は、専ら権利者である原告側の事情によって権利者不確知の事態が発生したものであるから、商事法定利率や民事法定利率を適用することは不当であり、平成六年三月一七日以降も店頭掲示の預金利率表記載の普通預金利率年〇・一七六パーセントが適用されるべきであると主張している。

3. しかしながら、債権譲渡契約は、債権の同一性を保ちながら債権を旧債権者から新債権者に移転するものであるところ、被告らに対する敏子の預金等は商法第五〇二条の「銀行取引」としてなされたもので被告らが敏子に対して負っていた本件預金等の返還債務は同法五一四条の「商行為によりて生じたる債務」に該当し、右預金等は本件死因贈与契約によって敏子から原告に同一性を保ったまま商事債権として移転されたものである。そして、被告らは、相続財産管理人からの債権譲渡の通知によって原告が被告らに右死因贈与による債権の取得を対抗できるに至った平成六年三月一六日を経過しているのに、供託もしないまま原告からの払戻請求を拒否しているのであるから、債務不履行の責を免れることはできず、その遅延損害金は商法五一四条所定の年六分の割合によるものといわなければならない。したがって、これに反する被告らの主張はいずれも採用しない。

三、以上の次第で、原告の本訴請求はいずれも理由があるから認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条及び九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 須藤典明)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例